日本の給与システムは、長い間独自の発展を遂げてきました。年功序列や終身雇用を背景とした給与体系は、高度経済成長期の日本企業の競争力を支える要素でもありました。しかし、グローバル化やデジタル化、そして働き方の多様化に伴い、日本の給与文化も大きな転換期を迎えています。この記事では、日本の給与文化の特徴、その歴史的背景、現在の課題、そして進行中の変化について詳しく見ていきましょう。

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目次
日本の伝統的な給与システムの特徴
年功序列型賃金体系
日本の伝統的な給与システムの最大の特徴は、年功序列型賃金体系です。この制度では、勤続年数や年齢に応じて給与が自動的に上昇していく仕組みになっています。
特徴的な要素:
- 基本給が毎年定期的に昇給する「定期昇給」制度
- 「勤続給」「年齢給」などの要素が基本給に組み込まれる
- 若年層は比較的低賃金でスタートし、40代〜50代でピークを迎える右肩上がりの賃金カーブ
- 職務内容や成果よりも「どれだけ会社に長く勤めているか」が重視される
安定性と予測可能性
日本の給与システムのもう一つの特徴は、その安定性と予測可能性です。多くの日本企業では、基本給が大部分を占め、業績連動型の変動給が少ないという構造になっています。
具体的な特徴:
- 基本給の比重が高く(全体の70-80%程度)、ボーナスなどの変動給の比率が比較的小さい
- 業績悪化時でも基本給の下方修正はほとんど行われない
- 生涯賃金が比較的予測しやすく、長期的なライフプランが立てやすい
- 短期的な成果よりも長期的な貢献が評価される傾向
賞与(ボーナス)システム
日本企業では、半年に一度(夏と冬)に支給される賞与が独特の給与文化となっています。これは基本給の何ヶ月分という形で計算されることが一般的です。
賞与の特徴:
- 支給額は基本給の数ヶ月分(平均的には3〜5ヶ月分)
- 企業業績による変動はあるものの、「必ず支給される」という期待感が強い
- 賞与を前提とした家計設計(ボーナス払いのローンなど)が一般的
- 基本給に対する比率という形で支給されるため、年功序列の影響を受ける
手当の多様性
日本の給与体系では、基本給に加えて様々な手当が支給されることも大きな特徴です。これらの手当は、従業員の生活支援や特定の職務に対する補償という側面を持っています。
代表的な手当:
- 家族手当(扶養家族の人数に応じて支給)
- 住宅手当(住宅費の補助)
- 通勤手当(通勤費用の実費支給)
- 役職手当(管理職などの役職に対する手当)
- 資格手当(特定の専門資格を持つ従業員への手当)
- 残業手当(法定時間外労働に対する割増賃金)
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日本の給与文化の歴史的背景
戦後復興期の基盤形成
第二次世界大戦後の混乱期、日本企業は従業員の生活を守るため、年齢や家族構成に応じた「生活給」の考え方を取り入れました。これが年功序列型賃金の基盤となりました。
歴史的背景:
- 戦後のインフレと食糧難の中での生活保障としての給与
- 労働組合の「生活できる賃金」要求
- 終身雇用制度の確立と連動した長期的雇用関係の構築
高度経済成長期の発展
1950年代後半から1970年代にかけての高度経済成長期には、日本型雇用システム(終身雇用・年功序列・企業別組合)が確立され、年功序列型賃金体系も定着しました。
この時期の特徴:
- 右肩上がりの経済成長による継続的な賃金上昇
- 春闘(春季労使交渉)による賃上げの仕組みの定着
- 「査定」による能力評価の導入(純粋な年功序列から徐々に修正)
- 福利厚生の充実(社宅、保養所、企業年金など)
バブル期とその崩壊
1980年代後半のバブル経済期には、高水準の賞与や豪華な福利厚生が提供される一方、バブル崩壊後は年功序列型賃金の見直しが始まりました。
変化の兆し:
- バブル期の人材獲得競争による給与水準の上昇
- バブル崩壊後の「失われた20年」による賃金抑制
- 年功序列型から成果主義への移行の試み
- 終身雇用の見直しと給与体系の再構築
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日本の給与システムの課題
若年層の相対的低賃金
年功序列型賃金体系においては、若年層は相対的に低い賃金からスタートします。これが若者の消費意欲の減退や少子化の一因となっているという指摘もあります。
具体的な問題:
- 20代〜30代前半の給与水準の国際的な低さ
- 結婚や出産の経済的障壁
- 若年層の消費意欲の減退と経済への影響
- 若手人材の海外流出リスク
職務や成果との不一致
同じ年齢・勤続年数であれば、職務内容や成果にかかわらず同等の給与となる傾向があり、特に高い能力や専門性を持つ人材にとって不満要因となることがあります。
課題となる側面:
- 職務内容と給与水準の不一致
- 高い専門性や成果を出す人材の不満
- ハイパフォーマーの転職リスクの増大
- イノベーションや生産性向上へのインセンティブ不足
年齢階層による賃金格差
年功序列型賃金体系では、若年層と中高年層の間に大きな賃金格差が生じます。これが企業の人件費を押し上げる一方、世代間の不公平感を生み出すこともあります。
格差の実態:
- 50代と20代の平均給与の格差(約2倍)
- 中高年層の人件費負担の増大
- 世代間の不公平感
- 非正規雇用との格差
評価の不透明性
多くの日本企業では、給与や昇進の決定プロセスが不透明であることが課題となっています。「頑張ったら報われる」という実感が得られにくいシステムとなっています。
不透明性の表れ:
- 評価基準の曖昧さ
- フィードバックの不足
- 「がんばり」や「忠誠心」など定量化しにくい要素の重視
- 人事評価者のバイアスの影響
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変わりつつある日本の給与システム
成果主義・職務給の導入
1990年代後半から、多くの日本企業で成果主義や職務給の要素を取り入れた給与体系の導入が進んでいます。
新たな動き:
- MBO(目標管理制度)の導入
- 職務等級制度の導入
- 年俸制の普及(特に管理職層)
- 360度評価など多面的評価の採用
ジョブ型雇用への移行
近年、特に大企業を中心に、メンバーシップ型からジョブ型雇用への移行が進んでいます。これに伴い、給与体系も職務内容に基づくものへと変化しつつあります。
ジョブ型雇用の特徴:
- 職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づく採用と評価
- 「同一労働同一賃金」の原則
- 職務の難易度や市場価値に応じた給与設定
- 年齢や勤続年数よりも職務遂行能力が重視される
多様な報酬システム
金銭的報酬だけでなく、柔軟な働き方やワークライフバランス、キャリア開発機会など、多様な形での「報酬」を提供する企業が増えています。
新しい報酬の形:
- フレックスタイム制やテレワークなど働き方の柔軟性
- サバティカル休暇(長期休暇)制度
- 自己啓発支援やキャリア開発プログラム
- ストックオプションなど資本参加の機会
透明性の向上
給与決定プロセスの透明性を高める動きも進んでいます。評価基準の明確化やフィードバックの充実により、従業員の納得感を高める取り組みです。
透明性向上の取り組み:
- 評価基準の明文化
- 定期的な1on1ミーティングによるフィードバック
- 社内での給与バンドの公開
- 評価者訓練の充実
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業界・企業規模による給与文化の違い
伝統的産業と新興産業の違い
製造業や金融業などの伝統的産業と、IT・デジタル産業などの新興産業では、給与体系に大きな違いが見られます。
業界による違い:
- 伝統的産業:年功序列的要素が強く残る
- IT・デジタル産業:スキルや市場価値に基づく給与設定
- 製造業:基本給+手当+賞与の伝統的構造
- スタートアップ:基本給+ストックオプションなど成長への参加
大企業と中小企業の違い
大企業と中小企業では、給与水準だけでなく給与体系や福利厚生にも大きな違いがあります。
企業規模による違い:
- 大企業:体系的な給与制度、充実した福利厚生
- 中小企業:柔軟だが体系性に欠ける給与制度
- 大企業:賞与の安定性が高い
- 中小企業:業績連動性が高い傾向
外資系企業の給与文化
日本に進出している外資系企業では、グローバルスタンダードの給与体系が採用されていることが多く、日本企業との違いが明確です。
外資系企業の特徴:
- 職務に基づく給与設定(ジョブグレード制)
- 業績連動型ボーナスの比率が高い
- 年齢よりもスキルと実績が重視される
- グローバルな報酬水準との整合性
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給与に関する社会的文脈
給与の話題に対するタブー意識
日本では、給与に関する話題は比較的タブー視される傾向があります。同僚間でも給与額を開示し合うことは少なく、これが給与の不透明性を高める一因となっています。
タブー意識の表れ:
- 給与明細を他人に見せることへの抵抗感
- 採用面接での給与交渉の少なさ
- 「お金の話」を避ける社会規範
- 転職時の給与交渉の消極性
「安定」と「成長」の価値観
日本では伝統的に、給与の「安定性」が「成長性」よりも重視される傾向がありました。しかし、若年層を中心にこの価値観にも変化が見られます。
価値観の変化:
- 伝統的価値観:安定した給与 > 高いリスク・高いリターン
- 新しい価値観:成長機会 > 安定性(特に若年層)
- 「終身雇用」から「生涯キャリア」への視点シフト
- ワークライフバランスの重視
給与格差と社会問題
正規雇用と非正規雇用の給与格差、男女間の賃金格差など、給与に関する様々な格差が社会問題となっています。
主な格差問題:
- 正規・非正規雇用間の給与格差(平均約3割)
- 男女間の賃金格差(女性は男性の約75%)
- 大企業と中小企業の給与格差
- 地域間の給与格差
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世界から見た日本の給与文化
国際比較でみる日本の給与水準
国際的に見ると、日本の平均給与水準は先進国の中で中位〜下位に位置しています。特に購買力平価で比較すると、相対的な地位の低下が顕著です。
国際比較の視点:
- OECD加盟国中の順位(中位〜下位)
- 1990年代以降の相対的地位の低下
- 物価水準を考慮した実質賃金の国際比較
- IT・デジタル人材の国際的な賃金格差
日本独自の給与要素
諸外国には見られない日本独自の給与要素も存在します。これらは日本の社会システムや雇用慣行と深く結びついています。
日本特有の要素:
- 多様な生活関連手当(家族手当、住宅手当など)
- 退職金制度の重要性(退職一時金)
- 年2回の賞与支給
- 通勤手当の実費支給
グローバル企業における調和の模索
多国籍企業では、日本の給与慣行とグローバルスタンダードの調和を図る取り組みが見られます。これは日本企業のグローバル化に伴う重要な課題となっています。
調和の取り組み:
- グローバル共通の職務等級制度の導入
- 日本特有の手当とグローバル報酬体系の融合
- 現地採用と本社採用の給与格差の調整
- グローバル人材の報酬設計
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コロナ禍とその後の給与トレンド
テレワークがもたらす変化
コロナ禍でのテレワークの普及は、給与体系にも変化をもたらしています。特に「勤務地」や「勤務時間」に基づく手当の再考が進んでいます。
テレワークの影響:
- 通勤手当の見直し
- 地域手当の再考(リモートワークで地方移住が増加)
- 時間外労働の把握・管理方法の変化
- 在宅勤務手当の新設
ジョブ型雇用への移行加速
コロナ危機を契機に、ジョブ型雇用への移行が加速しています。これは給与体系においても、職務内容に基づく報酬設計の重要性を高めています。
ジョブ型雇用移行の動き:
- 大手企業によるジョブ型雇用宣言(日立製作所、富士通など)
- 職務記述書(JD)の整備
- 市場相場に基づく給与設定
- 社内公募制度の拡充
多様な働き方と報酬の個別化
働き方の多様化に伴い、画一的な給与体系から個々の働き方に応じた報酬体系への移行が進んでいます。
報酬の個別化トレンド:
- カフェテリアプラン(選択型福利厚生)の普及
- 短時間正社員など多様な雇用形態に対応した給与体系
- 副業・兼業を考慮した報酬設計
- フリーランス的働き方と企業雇用の融合
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これからの日本の給与文化
デジタル人材の獲得競争
IT・デジタル分野の人材獲得競争が激化する中、これらの分野では伝統的な日本の給与体系からの大きな変化が見られます。
デジタル人材の給与トレンド:
- 市場価値に基づく高水準の給与設定
- 年齢や勤続年数によらない報酬体系
- グローバル水準を意識した給与設計
- 柔軟な働き方とのパッケージ提供
同一労働同一賃金の浸透
「同一労働同一賃金」の法制化により、正規・非正規間の不合理な待遇差の解消が進んでいます。これは日本の給与文化における大きな転換点となっています。
同一労働同一賃金の影響:
- 非正規雇用者の処遇改善
- 職務に基づく給与体系の普及
- 手当体系の見直し
- 人事評価制度の精緻化
ウェルビーイングと総合的報酬
金銭的報酬だけでなく、従業員の幸福度や健康も含めた「総合的報酬(トータル・リワード)」の考え方が広がっています。
ウェルビーイング重視の動き:
- 健康経営と連動した報酬設計
- 柔軟な働き方を「報酬」と位置づける
- 自己実現や成長機会を含めた総合的な報酬パッケージ
- 心理的安全性を高める組織風土づくり
データ活用と給与の科学化
人事データ分析(People Analytics)の発展により、給与設計や人材投資の意思決定が科学的アプローチに基づくものへと変化しています。
データ活用の進展:
- 給与と生産性・定着率などの相関分析
- 市場相場データの精緻な把握と活用
- AIを活用した最適な報酬設計
- 個人別の価値創出と報酬のバランス分析
結論:日本の給与文化の未来
日本の給与文化は、安定性と予測可能性を重視した伝統的なシステムから、多様性と柔軟性を備えた新しいシステムへと移行する過渡期にあります。年功序列型から職務・成果重視型への移行、正規・非正規の格差是正、多様な働き方に対応した報酬設計など、様々な変革が同時進行しています。
これからの日本の給与文化において重要なのは、グローバルスタンダードを取り入れつつも、日本社会の文脈に合った独自の発展を遂げることでしょう。チームワークや長期的視点を重視する日本の組織文化の良さを活かしながら、個人の成長やイノベーションを促進する報酬システムの構築が求められています。
給与は単なる「対価」ではなく、組織と個人の関係性や価値観を映し出す鏡でもあります。日本の給与文化の変革は、日本の働き方や組織のあり方そのものの変革と密接に結びついているのです。この変化の波に乗り、自らのキャリアや組織の未来を主体的に描いていくことが、これからの時代において重要になるでしょう。
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